引越しコラム column

遠距離でも積み重なる思い出


img_love_episode_39

二十二歳の春、就職のため県外に引っ越すことになりました。私には大学で出会って付き合っている彼がいたのですが、彼は地元で就職が決定していて私達は遠距離恋愛になりました。私の就職が決まった時に遠距離になることはすでに分かっていたのですが、なんとなく実感が湧かないまま引っ越しが終わりました。

 

泣いてしまった日

部屋に入ると嗅ぎ慣れた実家の匂いとは違い、少しよそよそしけれど新しい香りがしました。届いた荷物を片付けたり電気の開通や他の手続きを行って、最初の一周間は新鮮さと忙しさで頭がいっぱいでした。

しかし、ある日の夜部屋に戻ると、何故か無性に寂しさを感じてしまったのです。彼も家族も友達も近くにいなくて、私一人遠くに来てしまった。急に、ワンルームの部屋がやけに広く感じて、彼に電話して泣いてしまいました。「すぐに会いにいけるような距離じゃない。泣かれたら困る。抱きしめることもできないのが悔しい」彼は電話口で拗ねたように言いました。その後電話しても声を聞くと会いたくなって、でも彼を困らせたくないのでそっと声を殺して涙をながす事もありました。

 

京都旅行の思い出

ゴールデンウィークに二ヶ月ぶりに会えることになった時、「旅行に行こう」と提案され京都に行くことに。凄く混んでいたけど、久々に会えたことと旅行の高揚感で疲れも感じないほど楽しみました。二人共地元にいた時は中々計画を立てて旅行に行くことがなかったのですが、遠距離になってからは二人の間に度々旅行の話が持ち上がりました。普段離れているぶん、以前と比べて『旅行』が身近になったのです。

京都旅行の最終日、彼から「お土産」と渡されたのは綺麗な和柄のセンスと、ちりめん生地の可愛らしい巾着袋でした。いつ買ったのかも気付かなかったのですが、素敵な旅の思い出を胸に駅のホームでお別れを言いました。帰りの電車はまた独り。すこし涙ぐんでしまったその時、彼から「また旅行に行こう」とのメールがあり、悲しい涙は嬉し涙に変わりました。

 

離れていれば会えない時間も大事にできる

今、部屋の一角には木製ラックがあります。その上には、彼と行った旅行先での思い出の品々とコルクボードに貼った写真達。少し寂しくなってしまった時はそのコーナーを見て、思い出をかみしめています。近くにいるのが一番なんてことも思うけれど、こうやって離れている分会えない時間も大事にできるんじゃないかな。いつか一緒に暮らす時が来ても、離れている間に積み重なった思い出はとても大事なものになると感じています。